秋田の大門商店
大門宏幸
熟成の技 鹿角短角牛
肉の道に足を踏み入れたのは18歳
昭和50年、秋田市中通4丁目に松田裕氏が創業した『肉のわかば』でのアルバイトが第一歩
20歳の時、松田氏から暖簾分けの口約束を取り付け正社員となり、修行を重ね28歳で自分の肉屋を持った男
肉の道35年超の大門宏幸と、食文化 萩原章史のタッグで日本の畜産と肉流通に新風を吹き込む!
肉を極める道
先ずは家畜の血統と
生産者にこだわる
畜産の世界では、肉質を決める要素は、血統(DNA)5割、餌2割5分、環境2割5分と言われる。多少の比率の差はあっても、大きく間違っていることはないだろう。
これまで大門商店と食文化は、鹿角短角牛、森吉牛(褐色和種)、日本猪、原種デュロック豚、比内地鶏、フランス鴨など、様々な肉を、うまいもんドットコムで展開してきたが、全ての肉は血統と作り手にこだわってきた。
更には、飼育方法などにも踏み込み、作り手(畜産家)と大門商店(肉屋)と食文化(萩原)の三者が、『うまい肉を食べるには、どうしたら良いか?』を追求してきた。
シンプルな味付けで肉をうまい!と感じるには、何と言っても、肉本来の力がないことには始まらない。熟成だの、加工だと言っても、そもそも肉がひ弱では、話にならないのは当然だ。
肉本来の力が強い!
鹿角短角牛とは
鹿角短角牛(かづの牛)は、国内の肉専用品種4種(黒毛和種・褐色和種・日本短角種・無角和種)のうちの1種、日本短角種である。短角牛は、昭和32年、南部牛とショートホーン種を掛け合わせた牛で、主に北海道と東北地方(秋田・岩手・青森)で盛んに飼育され、塩を運ぶために使われていた。手間が掛からず発育も早く、肉質は、脂肪分が少ない赤身で、低カロリー・鉄分などが豊富なこともあり、昨今注目を浴び始めている。
秋田最北の地である鹿角地方は、十和田・八幡平に代表される自然と温泉が豊かな地域で、古くから鉱山が多く、なかでも尾去沢鉱山は1300年の歴史があると言われている。かつては、三陸沿岸で作られた塩を牛の背中に積んで、鹿角まで運んでいた。
大自然の中で放牧された鹿角短角牛は、自由気ままに草を食み、草原を走り、ストレスもなく、健康に育ち上質な赤身(筋肉)になる。熟成させることでさらに、黒毛和牛にはない、濃厚な旨みを感じることができる。赤ワインに合う、これぞ肉!という満足感を味わうには、分厚いステーキが一番だ。
生産者の高齢化などの影響もあり、鹿角短角牛の飼養数は減少しており、年間僅か50頭程度しか流通していない、今や県外不出の牛である。
大門商店の肉のラインアップは幅広い。
牛豚鶏鴨猪馬、細かい規格も入れれば、実に多種多様な肉が並ぶ。
もちろん、徹底的な部位別規格もすごい!
内臓から熟成肉まで、非常に細かく、商品区分けをしている。
仮に、大門商店が都心にあったとしても、その品揃えが一級品なのは間違いない。
枝肉で仕入れるのが基本
牛肉の場合、背割りした枝肉を吊るして、最低でも3週間、鹿角短角牛の場合、1ヶ月熟成させ、肉の余分な水を切り、濃厚な肉の塊に先ずはする。
実際、大門商店の店の裏の枝肉スペースは、枝肉林立状態になっている。豚も同様で飼育日数や血統などに応じて、ギリギリまで枝肉で吊るして、味を高める。
ドライエイジングを本格化
大門商店では十数年前から、自己流でドライエイジングを試行錯誤してきたが、平成28年、本格的な熟成庫を設置し、熟成菌の適性見極めや、熟成庫内の場所場所の温度管理や風向きの適性実証実験を本格化させた。
日本で伝統的な熟成方法「枯らし熟成」は、枝肉のまま0度の冷蔵庫で3週間から1か月つるし、余分な水分を抜いてその間にタンパク質が分解しアミノ酸に変化するなど旨味を高める。
大門さんのドライエイジングは、さらに温度2〜3度、湿度70%の熟成庫で50〜80日間熟成。 熟成庫ではまず、風邪を肉全体に当てるようにして、肉の表面などに存在する自由水を飛ばし、悪い菌が中に棲み着かないようにする。 そうすることで、酵母菌の中でもいい熟成菌だけが残り、うまく働くと、肉の表面が白っぽくなる。
鹿角短角牛だけでなく、黒毛和種、交雑牛はもちろんのこと、豚や猪でもドライエイジングによる、味を極める試作を繰り返してきた。
平成29年6月、ようやく、熟成庫の安定的運営と、それに伴う販売体制の目処がつき、熟成庫内には、様々な肉が芳香を放つ状態になった。
肉の加工も深掘りする
大門商店
大門宏幸は店を持った10年後の38歳、絵美里さんと結婚。その後、絵美里さんはイタリアで料理修行。大門商店の1号店(秋田市外旭川店)の道路を挟んで反対側で、総菜屋を運営するなど、二人三脚で精肉から加工までを担ってきた。
※総菜店は熟成庫に改造され、総菜はもう1店舗の山王店に集約されている。
平成21年に秋田県庁近くの山王にメルカートわかばを開店。ハム・ソーセージやベーコンなどの製造も本格化させた。
日常の肉、ご馳走の肉、酒肴的肉など様々な肉食の世界が広がるのが、山王店だ。
精肉はもちろん、ローストビーフ、ローストチキン、参鶏湯、焼き鳥セット、焼き肉セット、煮た豚足、焼きフランス鴨、ボタン鍋、豚しゃぶ、すき焼き、ハンバーガーセット、牛や豚のTボーンステーキ、コーンドビーフ、ビーフジャーキー、ポークジャーキー、ホルモン鍋などなど、実に多種多様な肉食で我々を楽しませてくれる。
大門宏幸が次に目指すのは
何よりも「秋田が好き!」の大門宏幸は、秋田の畜産家を応援し続けている。
小規模でも素晴らしい畜産物を生み出す生産者は秋田にはまだまだいる。
但し、日本で最も人口減少と高齢化が進む秋田県では、畜産業の廃業が相次いでいる。つまり、担い手不在のところが多い。
大門商店と食文化では、そうした畜産現場を応援し、持続可能な生産体制(つまり、販売や加工体制)を構築することで、秋田の畜産業の振興に役立つ覚悟だ。
実は大門宏幸の父は水産仲卸業を営んでいた。子供の頃は秋田の魚食文化にどっぷり浸かって育ち、20歳以降は肉屋を極める道を歩んできた。
私が「大門さんは、どんな包丁が好きなの?」と聞けば、「スジ引き用の、薄刃で細い包丁が好きかな・・・自分はスジの掃除が昔から好きでね・・」とのこと。
スジの掃除が好きな男、スジ金入りの肉屋なのは間違いない!
三種町の馬肉も本格展開!さらに、由利本荘のジャージー牛(褐毛)も肉用で展開すべく準備中だ。
鹿角短角牛のNYカットで
始まった大門・萩原のタッグ
忘れもしない、初めて、鹿角短角牛の分厚いステーキを焼いた時の匂い。
米国駐在時代、極上の牛肉を焼くと漂ってきた匂いを思い出させてくれた。緑の草を食べている牛特有の香りは、重たい赤ワインを欲しくさせる。
鹿角短角牛の味に惚れ込んで、最初に大門商店を訪ねたのは2008年6月10日。
もう10年以上前のことだ。
共に50代後半の大門宏幸&萩原章史のタッグで、これからも肉食文化を深掘りし、どんどん、楽しくてうまい肉をお届けする予定だ。
「この肉、柔らか〜い!霜降りだ〜
口の中で溶ける♫ A5が食べたい〜♫」
みたいな方にはわからない、これぞ「The肉!」を目指す道はまだまだ先が長い!
(株)食文化 代表 萩原章史