虎杖浜の毛蟹
北海道虎杖浜 創業大正2年
カネシメ松田水産
『究極のたらこ』 を作る男達は、毛蟹にも究極のこだわりがあります。
長年、厳しい資源管理を続けてきた、虎杖浜の夏の毛蟹漁。
水揚げ量は少なくとも、大きな毛蟹を産する豊かな海 特に黒い巨大毛蟹は絶品!
最高の毛蟹を落札し、最短時間で活け締めし、丁寧に手間を惜しまずに仕込む。
全ての条件がそろって、初めて、究極の毛蟹を提供できます。
数百年前から
アイヌの人々が愛した土地
白老町の虎杖浜「アヨロ海岸」
虎杖浜のある白老町は、アイヌ語「シラウオイ」から転訛(てんか)したもので、「虹の多い処」という意味です。
雨上がりにしばしば虹が見える白老の海。
その中でも虎杖浜(虎杖はイタドリ)はアヨロ海岸と呼ばれてきました。
「アヨロ」の語源は、「アイ・オロ・オ(川の中に矢を収める処)」とされ、アイヌの遺跡からは漁具のような矢尻も見つかっています。
太古の昔から、この豊穣な海を、アイヌの人々は大切にしてきたはずです。
現在はアイヌの人々に代わって、漁師の皆さんが厳しい漁獲制限を徹底し、アヨロの海を守っています。
7月中旬〜8月中旬の約1ヶ月間、虎杖浜は毛蟹漁で賑わいます。但し、漁期内でも、漁獲制限量に達した時点で、その年の毛蟹漁は終漁になります。
産卵期(10月〜11月)前の
充実した毛蟹にこだわる男たち
虎杖浜の毛蟹漁では最古参の船頭、刈屋順昭さんにお話を聞きました。
「たくさん毛蟹が籠に入るけど、ほとんどは海に戻しちゃうんだよ!」刈屋さん談
メスの毛蟹と8センチ未満の甲長のオスの毛蟹は禁漁です。資源が回復してきた虎杖浜では、カニ籠にたくさんの毛蟹が入るそうです。
刈谷さんは8センチ以上でも小さな蟹は海に戻し、大きなものだけを選んで持ち帰ります。
総漁獲量の制限があるので、8センチ以上でも、小さな蟹はリリースしているのです。
「油が高いから、少し遠い漁場には行けないし、しけると油が余計に掛かるしな・・・」刈屋さん談
ここにも原油高の影響が出ています。虎杖浜の毛蟹漁は目の前の海ので、それほど油が必要ではないので良いです。
従来、甲羅が8センチになるには4年間が必要とされていましたが、最新の研究では7年以上かかることがわかってきました。
最大の12センチ級になるには、12年もの年月が必要なようです。
その意味で、ここ20年ほどの漁獲制限で資源回復を実現した虎杖浜の活動は、先進的かつ忍耐強い取組として賞賛に値すると思います。
最高の毛蟹を落札し、
仕込みにこだわる!
カネシメ松田水産 四代目
松田幸男
創業大正二年のカネシメ松田水産の本業は、究極のたらこ製造販売です。
それも虎杖浜に水揚げされる、前浜のスケソウダラの卵にこだわっています。
虎杖浜の前浜で水揚げ後、数時間以内で仕込みされる『たらこ』は絶品です。
戦後まもなくから毛蟹は扱っていましたが、現在のような徹底した『こだわり』を持って毛蟹の仕込みに取り組み始めたのが、ここ17年。
四代目松田幸男さんが力を入れ始めてからです。まさに、試行錯誤の末に完成した、究極の毛蟹です。
究極の毛蟹が生まれるまで
AM10:10 毛蟹の入札開始
夜中の2時前後に出港した毛蟹漁の船は、午前8時くらいから、港に戻ってきます。水揚げされた毛蟹は大きな水槽に移され、10時10分からの入札を待ちます。
大・中・小と3回に分けて競りが行われますが、以前訪ねた時は小がたくさんありましたが、数年後にはほとんどが大で、小は無かったです。
資源は確実に回復しています。虎杖浜の入札は老若男女入り混じった、のんびりした光景です。80歳を超えた名物おばあちゃんも元気に札を入れています。
欲しい量とキロ単価を書いた紙を競り人に渡し、直ぐに開札です。落札価格が高い順に毛蟹を選び、買う権利を獲得します。
AM10:20 毛蟹を厳選
当然ですが、良い蟹を手に入れる為、高めの値段で入札します。
落札価格が高い順に毛蟹の選ぶ権利が与えられますから、良い蟹が欲しければ、当然、高めの値段を入れます。高すぎては損をしますので、そこは経験がものを言います。
札は価格を分けて何枚も入れますから、何回も蟹を選ぶ順番がきます。
カネシメ松田水産では、落札順に選別した毛蟹を、車で5分ほどの加工場に運び、どんどん仕込みに入ります。
AM11:00 大量の地下水で
元気な毛蟹を活け締め
前浜で水揚げされた毛蟹はとても元気です。ところが、元気な蟹をそのまま茹でると、足がもげてしまいます。
正確には自切と呼びますが、トカゲが尻尾を切るのと同じ現象です。当然、蟹の汁が外に出てしまい、美味しく茹りません。その為、大量の地下水に蟹を沈め、30分かけ、活け締めにします。
PM13:00 丁寧にたわしで洗い、
茹で上がりを美しく仕上げる
毛蟹には泥や海草などの汚れがついています。
ほとんどの加工業者はさっと洗うだけで茹でますが、カネシメ松田水産では、一匹一匹、丁寧にたわしで洗います。
PM14:00 大きな釜で一気に茹で上げ
猛烈に沸騰する釜に毛蟹を入れ、一気に茹で上げます。600g以上の大きなサイズの場合、再沸騰後、約25分で茹で上がりです。
時間はその日の蟹のサイズや量で調整します。もちろん、塩加減も調整します。
PM15:00 大量の氷で茹で上がった
蟹を締める
茹で上がった毛蟹に、間髪入れずに冷水をかけて『あく』を洗い、大量の氷の冷蔵庫で一気に温度を落とし、同時に身と味噌を締めます。
急速に温度を落とすことで、雑菌の繁殖を防ぐと共に、蟹の汁と味噌を落ち着かせます。
もちろん、茹でたても美味ですが、この冷たくするプロセスが実は非常に重要です。
冷やすことで、蟹の身の味もぐっと濃くなります。
大量の氷がないとできないので、一般的な蟹業者の場合、自然冷却です。当然、味と鮮度維持に違いがでます。
翌朝 水揚げした船名のタグをつけた
輪ゴムで足をまとめ出荷
カネシメ松田水産は毛蟹のトレーサビリティーも徹底します。その為、水揚げした船の名前が入ったタグをつけます。
こうして出来上がった毛蟹を飛行機に乗せ、翌日、お客様の手元に届きます。
宅配される間の1日の間でも、毛蟹の味はしっとりします。シーズンが終わった後にお届けするものは、冷やす工程まで仕上げたものを味が落ちないよう急速冷凍したものです。
究極の毛蟹
名づけて「黒毛蟹」
重さは1kg以上、甲幅が12センチ前後まで成長した、まさに最大クラスの毛蟹です。それも脱皮してから時間が十分に経過した、黒い長い毛がびっしりと生えた最高の毛蟹です。
見た目は黒っぽいので美しくはないですが、このサイズになると、海の中でも敵が少ないのか、身の入りも良く、味は非常に濃厚です。
また、茹でた後の歩留まり(蟹は茹でると軽くなります)も良いです。
「萩原さんに言われてから、黒い毛蟹と普通の毛蟹を食べ比べるようになったけど、やっぱり、黒い方がうまいよ!」松田社長談
特大サイズ(600g以上)を100kg仕入れても、2〜3匹しか入っていませんので、まさに幻の黒毛蟹です。
総漁獲高の中でも、おそらく、500〜750匹くらいしか獲れないと思います。
※「黒毛蟹」は株式会社食文化の登録商標(第5761421号)です
美味しい毛蟹の食べ方
別にルールはありませんが、作法とか、お行儀を考えないで食べるのが肝要です。
包丁は使わないで、手と歯で楽しむのがお勧めです。使っても料理ハサミ。
(理由:ご家庭の包丁で毛蟹を切ろうとすれば、切るときの包丁の圧力で蟹の大切な汁がまな板に溢れてしまいます。もし、使うのであれば、料理用ハサミがお勧めです。)
理想を言えば、一滴たりとも蟹汁をこぼさないのが、蟹食道の極みです。
先ずは足からです。一本、足を胴からもぎ、折れた部分を口に含みます。それから、太い部分と足の先を持ち、さらに折ります。
蟹の汁が口中に滴ります。毛蟹独特の甘みとうまみが口中に広がります。
足の関節部分を少しだけ歯で噛み切り、中身を出やすくします。そこで太い側から中の身を吸い取るように、吸い込みます。
十分な吸引力があれば、中の身が『ズボッ』と口に飛び込みます。
もちろん、カニスプーンなどでほじり出しても良いです。
両側の足を食べてから、甲羅を開けます。三角形のふんどしを取ります。ここにも蟹味噌や脂が入っていますので、すすります。
ふんどしを取り去った穴に指を入れ、甲羅と胴体を『かっぱっと』分離します。
その際、胴体の真ん中に残っている蟹味噌をこぼさないで、甲羅にあけます。甲羅に付いた口部分とそれにつながる胃を取り除きます。
この時にも口や胃にまとわりついた蟹味噌を残さずしゃぶります。甲羅にはたっぷりの蟹味噌、あとはお好きなように・・・
胴体部分はガニ(ぶよぶよのえら)を取ってから、左右半分に割ります。後は身を食べるだけ。
足の付いていた部分ごとに割ると、食べやすくなります。
800gサイズを一匹も食べれば、大人2人が十分に堪能できること間違いなしです。
新企画「毛蟹の甲羅詰め」
まるで毛蟹のボール
『毛蟹は美味しいけど、刺があって食べにくい・・・』
そんな方への新企画です。吟味した茹で虎杖浜の毛蟹を、丁寧に一杯一杯、殻から身を取り出し、甲羅に詰めました。
上から順番に食べると、先ずは脚の太い身、次に胴の部分や脚の細い部分の身を食べて、最後に蟹味噌です。 この企画なら、だれでも毛蟹を簡単に堪能できます。一杯を詰めるには15分ほど掛かりますから、手作業ならでは美味です。
『うちの本業はタラコ屋。面倒くさい仕事に慣れているから、甲羅詰めができるけど、蟹専門で大量に扱っているところなら、こんなことしないよ(苦笑)』松田社長談
デリケートなタラコを扱う、おかあさん達の器用な指先が実現した、嬉しい毛蟹堪能企画です。嘘のようですが、一杯の毛蟹の身で、こんなボールのようになります。
毛蟹は可食部が多いと言われていますが、この姿を見ると納得です。
(㈱食文化代表 萩原章史)