飯塚芳幸さんが創るぶどう
育種も手掛ける凄椀生産者
長野が誇るぶどう栽培のスペシャリスト
飯塚芳幸さん
生命力(いのち)を宿したブドウ
それは、飯塚さんの技と土が生む結晶
2013年、「こんな格好でゴメンナサイ。なにしろ暑くて・・・・」
そう言いながら現れた飯塚さんは、慌ただしさの中で気取らず、でも気配りも忘れず、サッと客間に通して下さった。
佇まいにも凛とした空気がある。
日本中を旅して美味しいものを発掘する私たちが、「これは!」と驚くものを見つけるときに共通する感覚だ。
期待が膨らむ。
巨峰、ナガノパープル、ピオーネ、甲斐路、ロザリオビアンコ・・・、実に20種近くにも上る品種を育て、
そのうえ、地元・長野の農業大学校では教鞭を執っている。飯塚さんが忙しいのは当然なのだ。
ぶどうを作るのは木、
木を支えるのは根、そして土。
「微生物がつくる健全な土と根。それが美味しいぶどう作りの鍵」
そう仰る飯塚さんだが、初めから順風満帆だった訳じゃない。
父の代からぶどう作りを始めたものの、「この土地一体は強粘質で、水田にしか向かない」。
水はけが悪く、ブドウは根が張れず、すぐ根腐れしてしまう。
本来、水はけの悪い土地は、ブドウ栽培には不向きなのだ。
試行錯誤を繰り返すも思うような結果が出せず、悩み続けていた中で出会ったのが、元京都大学の小林達治先生が提唱する微生物に着目した堆肥による有機栽培。
以来、農薬や化学肥料の使用を徐々に減らしていき、土壌微生物を活性化、「土との対話」を実践していく。
今や1haを超す広さの圃場は全て、化学肥料・除草剤・土壌消毒剤、一切なしの「特別栽培認証」(農水省新ガイドラインによる)。
そうして30年以上も土づくりと向き合ってきたからこそ生まれる、最高のブドウなのだ。
飯塚果樹園オリジナル品種
『真沙果』が誕生
飯塚さんが新品種の開発に着手したのは、2000年の頃、50歳からの挑戦だった。
「アウローラ21(ルーベルマスカット×リザマート)」と「カッタクルガン※」を交配し、およそ11年の歳月をかけ、2019年に品種登録を果たしたのが「真沙果(まさか)」だ。
1粒30gにもなる超大粒、薄い皮はパリッとした食感、香り高さと滴る果汁が魅力で、
「まさかこんなぶどうがあるなんて、、、」と、その驚きから命名された。
ぶどう栽培のプロとして「自分の品種をつくる」という飯塚さんの夢が実現した瞬間だった。
※「カッタクルガン」:美しい黄緑色で中央アジア原産の大粒品種、一番の特徴は皮の薄さ。欧州種の中でも最高品種と言われ、リザマートの親、シャインマスカットや瀬戸ジャイアンツの祖父系統にあたる。
新品種開発への飽くなき挑戦
2022年8月、飯塚果樹園を訪ねた。
緑白綬有功章も受章され、名実ともに名人の飯塚さんだが、気取ることもなく、凛とした佇まいは健在だった。
早速園地に入ると、見たこともないブドウの数々に圧倒される。
「真沙果」とシャインマスカットを掛け合わせた新品種のブドウが4種、同じ交配種でありながら、色、形、味に個性をもつ葡萄が見事に実を付けていたのだ。
2017年に、娘夫婦を後継に迎え、さらなる新品種の開発とぶどう作りにともに取り組んでいる。
(画像:高橋さん、飯塚さん、美夕果)
<飯塚果樹園のオリジナル品種
(真沙果×シャインマスカット)>
美夕果(みゆか):信州の美しい夕焼けを思わせる赤いグラデーション。2022年6月に品種登録。
ゴールドナイト(金の騎士):黄金に輝く西洋の騎士を彷彿させる独特の形から命名。品種登録申請中。
黄妃(おうひ):ジューシーな小柄な粒は気品ある妃を思わせることから命名。
紅緋(こうひ):鮮やかな真紅に染まる果実は、甘さ、酸味、香りのハーモニーが魅力。
ゴールドナイト(金の騎士)
黄妃
紅緋
新品種の芽
農林水産大臣賞をはじめ、
数々の賞を受賞
飯塚さんは、ブドウ王国・長野県において、長野県知事賞を通算7回、2010年に日本農業賞優秀賞、
2018年に緑白綬有功章を受章している。
長野ブドウ栽培の歴史でも、1人で7度もの受賞を誇るのは飯塚さん唯一人。
都内の高級百貨店では、出荷時期を迎えると、飯塚さん個人の「ブドウ特別コーナー」が設けられるほど、
その実力は青果業界人の間では知られている。