平成元年、沖縄県独自品種を開発するべく、パインアップル育種指定試験が沖縄県農業試験場名護支場(現在の沖縄県農業研究センター名護支所)に設置されました。
背景には1961年の生果、71年の冷凍果実、90年には缶詰の自由化があり、沖縄の主要農作物のパインアップルは、缶詰輸入自由化前には4万トンの生産量があったものの、その後は加工用を中心に激減し、1万トンを切る水準まで落ち込みました。※輸入品はパイナップルと、沖縄産はパインアップル(Pineapple)と書きます。
果実が松かさ(Pine)、味がりんご(Apple)に似ている為に名づけられたと言われます。
世界的に見れば、トップクラスのタイ・フィリピンは200万トン級の生産量があり、毎年、日本に15万トンものパイナップルが輸入されています。
物価水準や生産効率を考えると、これまで栽培してきた加工用品種(N67-10)では勝負しようがないのは明らか。
そこで、沖縄県は病気に強く、高糖度・低酸の特徴を持つ、非常に美味なパインアップル品種を開発し、それを完熟収穫し、鮮度PRして、圧倒的な味で輸入品と勝負する策を取ることにしました。
沖縄県の土壌は本土と違い強酸性土壌。そうした土壌でも安定的な収穫が見込めるパインアップルは重要な作物。そう簡単に輸入品に負けるわけにはいきません。 輸入パインを味と香りで圧倒できる、超美味なパインアップルの開発に、沖縄県のパインアップル農業の未来を託したわけです。
パインアップルを交配して種から育てて2年から3年後に収穫ができます。
つまり、一巡(一次選抜)に2〜3年掛かるので、良い品種を選抜するだけでも7〜10年、さらに栽培地での適性試験まで入れれば、9年〜19年もの歳月が必要になります。さらに、新品種の登録には13年〜20年掛かります。
また、実際の農業現場での作付面積を増やすにも2年〜5年は掛かります。
平成元年にスタートした、沖縄パインアップル品種育成プロジェクト、ようやく収穫期に入ったと言えます。多くの研究員の地道な栽培試験の繰り返しが、沖縄農業の明日を開拓しているとも言えます。
猛烈な暑さの中での農作業、様々な条件での作柄の検証、試食。価格競争ではなく、品質で勝負する日本の農業の真骨頂です。
育種の達成目標のターゲットになったのは、台湾原産のボゴール種。(スナックパイン)日持ちはボゴール並み、ボゴールよりも病気に強く、味はボゴールより良く(高糖度で低酸)、栽培しやすさ(トゲの有無など)は加工品種のN67-10並み、香りもボゴール並みです。
(写真右:パインアップルの花 美しいです。)
沖縄県の新品種:ソフトタッチ(沖縄1号)、ハニーブライト(沖縄4号)、サマーゴールド(沖縄6号)、ゆがふ(沖縄7号)に続き、3年に1度しか生らない超美味な新品種 ゴールドバレルが本格収穫期に!次に控えるのが、平成21年に品種登録したジュリオスター(沖縄10号)
ソフトタッチは一般的にはピーチパインと呼ばれる品種。実は他の新品種は病気などの問題で、ほとんど作られていません。沖縄のパインアップル生産量はN67-10が約6割、ボゴール(スナックパイン)が約3割、ソフトタッチ(ピーチパイン)が約1割弱。つまり、この3つの品種で殆どの生産量を占めています。
クリームパインにMcGregor ST-1を掛け合わせて生まれたゴールドバレルは、ようやく、栽培が軌道に乗ってきた新品種です。一般的なパインアップルは4年で2回収穫しますが、ゴールドバレルは3年で1回。
当然、収穫量が少なくなります。栽培は難しく、病気にも弱く、何度も品種選抜で落ちる可能性があった品種です。
では、何故、数多くの選抜に勝ちぬけたのか?それは極めて美味だからです。
大きいものは2.5kgにもなるゴールドバレルは、小玉でも1.2kgはあります。平均で1.5kg前後ですから、スナックパインやピーチパインの1.5倍以上と大玉です。
平均糖度は16度以上、酸度は0.5%前後なので、バランスが良く、とても美味です。
(写真右:収穫が終わったゴールドバレルの畑。日よけのネットが張られています。)
輸入パイナップルの説明に慣らされてしまった日本人は、パイナップルは黄色くなるまで追熟させないと美味しくないと信じている方が多いですが、それは完熟パインアップルには当てはまりません。室温で3〜5日が美味しい期間ですが、出来れば、届いたら直ぐに召し上がって頂きたいです。とてもジューシーで美味です。
ビタミンB1は豊富、ビタミンB2やCも比較的多く含まれます。クエン酸・リンゴ酸が多いので、様々な効果が期待されます。
カリウムも豊富。さらに、パインアップルの特徴はプロメラインという、たんぱく質分解酵素を含むことです。
完熟パインアップルは少し固くても芯まで美味です。包丁を入れると汁が垂れるほどジューシーで甘くて、酸味が少ない沖縄パインアップル。本当に素晴らしいです。
私が沖縄県農業研究センター名護支所を訪ねた時に、沖縄17号と20号を試食しましたが、これが凄い!ゴールドバレル以上かも・・・それも、パインアップル試食の前に、完熟マンゴーを試食していました。完熟マンゴーの味の記憶を一掃するインパクトです。これを食べたら、パインアップルの価値観が変わります。
他にも、様々なトロピカルフルーツの育種に取り組む沖縄県農業研究センター名護支所は、私から見ると宝の山。
これからも、生産量は少なくとも、本当に美味な沖縄のフルーツを紹介していきます。
(㈱食文化 代表 萩原章史)
レンブの改良品種。梨のような、林檎のような不思議な味と食感美味です。
立派なスターフルーツ これも不思議な味
ドラゴンフルーツも研究しています
大きいものはソフトボール大になるグアバ。凄い!