秋田の冬の美味
「ハタハタ」
秋田人にとってのハタハタは別格の食材
ハタハタ 鰰とも鱩とも書かれる
冬の美味
神の魚、雷の魚 どちらにしても、
秋田人には特別な魚
深い海にすむハタハタは、
沿岸の海水温が低下すると
産卵の為に秋田の海岸に押し寄せる
体重の4〜5割を占める
卵を抱えたメスは美味
それも数の極めて少ない四年魚は
究極の逸品
秋田音頭の出だしで謡われる『秋田名物 八森はたはた 男鹿で男鹿ぶりこ』
いかに、秋田人にとってハタハタが特別かを物語ります。江戸時代の数多くの文献にも、秋田人とハタハタの特別な関係を示す記述は数多くあります。
※『ぶりこ』とは、ハタハタの卵
ハタハタの名前の由来
諸説ありますが、ハタハタは冬の嵐の雷が鳴る頃、沿岸の海藻に産卵する為に、群れになって押し寄せることから、雷と魚、さらには、その圧倒的な豊な恵みが故に、神の魚と称されたようです。
何故?秋田だけなのか?
日本海に広く分布するハタハタですが、国内では秋田が最大の産卵地です。
ハタハタは沿岸水域の海水温が13度以下に下がると、冷たい深い海から産卵の為に沿岸に押し寄せます。
秋田の沿岸はハタハタの生育場所から近い産卵適地で、本州では唯一の大規模な産卵場所、すなわち、漁場となっています。
他の地域でもハタハタは食しますが、ほとんどは干物としてで、秋田のよう独自のハタハタ食文化を形成している地域はないです。
かつては2万トンを超えた秋田のハタハタ水揚げ。県民人口が120万人だとしても、県民一人あたり17kgものハタハタが獲れていたわけです。
もちろん、ハタハタをそれほど食べない地域もありますから、恐らく、食べる地域では、『どんだけ食べていたのか?』。想像を絶します。
現在は禁止ですが、手持ちの網で港の中や堤防で簡単にすくって食べられたほど、秋田人には身近な自然の恵みだったわけです。
また、これも現在では犯罪ですが、卵(ぶりこ)が海藻から外れ、海岸に打ち寄せたものも、簡単に拾って食べられたので、老若男女・金持ち貧乏人を問わず、秋田人のDNAには『ハタハタの味とにおい』が、何代にもわたって刻み込まれています。
毎年、ハタハタの季節に悲しい知らせが流れます。ハタハタ目的の釣り人・漁師、ハタハタに魅せられた秋田人が、荒れた海で事故にあったニュースは枚挙にいとまがないです。命がけで獲りたくなるほど、秋田人にとってはハタハタが特別です。
秋田県以外には、ハタハタが押し寄せることはないので、ハタハタを鮮魚で料理したり、しょっつるにしたり、寿司にする文化はありません。
昔から米が豊富だった秋田だから文化として根付いたハタハタ寿司でしょうし、冷凍庫がない時代に、保存の為に造り出したしょっつる(魚醤)だったのです。
4年魚の立派なハタハタは
貴重品
秋田では箱単位で売買されるハタハタ。ただ、大量に獲れるから秋田人を虜にした訳ではないです。確かに鮮度が良く、漁期前半のぶりこが柔らかい時期は美味です。特に、大きなメス(4年魚)はとても美味です。
ハタハタは2歳で17㎝(卵の数は約900粒)、3歳で21㎝(約1600粒)、4歳で25㎝(約2600粒)くらいになります。卵の重さは全体重の4〜5割に達し、歳をとるほど、卵の粒も大きくなります。
※時期が遅くなると、ぶりこ(卵)が固くなり、美味しくなくなります。
ハタハタは底引き、刺し網、定置網などで漁獲されますが、良い状態で水揚げされたものは、活けの状態で、水揚げ後もしばらく生きています。
多くのハタハタは網の中で死んでしまったり、網を海藻と勘違いして、産卵してしまったりして、質が悪くなります。
ここ数年の統計では、4年魚の立派なハタハタは総漁獲量の0.5%にも満たないほどです。
鮮魚のハタハタは美味
どんな食べ方が美味か?シンプルな食べ方が美味です。もちろん、ハタハタ寿司などの郷土料理も美味しいですが、新鮮なハタハタを煮たり、焼いたりして食べるのが一番です。
とても不思議なのは、秋田人はハタハタを刺身にしません。また、ハタハタ漁の時期は雪か雨か曇天の秋田では干物も一般的ではないです。
一押しはハタハタをシンプルな昆布出汁で煮て、しょっつるだけで味付けする、しょっつる鍋です。単純ですが、非常に美味です。特に、この時期のぶりこはヌルヌルしていますが、食べ慣れると格別な味わいです。
小ぶりのハタハタならば、
一度にオスメスを
対で何匹も食べる秋田人
秋田の昔の文献を読むと、何も味付けをしないで、ハタハタを煮て、煮えばなを何匹も何匹も醤油やしょっつるを掛けて食べる・・・・そんな記述もあります。
頭と内臓を取り去り、さっとあぶって、中骨を骨抜きして食べるともあります。
ハタハタは鱗がない魚なので、実は調理は簡単です。ただ、鱗がない上に、柔らかい魚なので、鮮度落ちも早く、少し前の流通では美味なハタハタを産地以外で食べることは実質不可能だったのも事実です。
特に、平成3年に水揚げ70トンまで落ち込んだ時には、ピーク時の0.3%程度の水揚げです。その後、3年間の禁漁を経て、ようやく、4000トンレベルまでに資源が回復してきました。
本物のしょっつるも美味
昔ながらのしょっつる製法 ハタハタと塩だけを樽に寝かせて、最低3年待ちます。
私が訪ねたのは、男鹿の諸井醸造。長いものは8年間も寝かされており、アンチョビを彷彿させる香りを湛えていました。
琥珀色のしょっつると上質なハタハタ 最高の鍋の組み合わせであることは言うまでもないです。他に用意するのは、葱・白菜・セリなどの冬の野菜と豆腐、昆布だしがあれば、さらに美味です。
秋田の人は鍋にしらたきを入れる習慣がありますが、この鍋には合いません。
出来る限りシンプルに上質なハタハタの脂ののった白身を味わう。それが最高です。
(株)食文化 代表 萩原章史