日本一大きな
西明寺栗
類まれな巨大栗は、
三百年もの時間と選抜・改良の手間の産物。
西明寺栗生産出荷組合、
齋藤農園のこだわりの西明寺栗。
春
手入れの行き届いた栗林は、
一面のかたくりの花畑
秋
樹上完熟した巨大栗は、
自然にボトリと落ち、それを拾う
巨大な西明寺栗は50gを超えるものも
珍しくない
西明寺栗の歴史
西明寺とは、 角館の少し北にある地名。秋田藩の佐竹候が日本の栗栽培発祥の地である「京都の丹波地方」や「美濃の養老地方」から栗の種子を取り寄せ、北浦地方(現在の仙北市)で増植・栽培を奨励したことが、西明寺栗の始まりと言われています。
当時は、 北浦の栗と呼ばれ、「(佐竹)北家日記」に延宝・元禄の頃(1673年〜1703年)、秋田藩主への大栗献上に関する記事があるほか、年貢米の代わりに、栗を上納していたとも伝えられています。約300年前に持ち込まれた栗は自然交配により栽培・改良が続き、その過程で大きな栗だけが選別され、現在は西明寺1号から5号までが品種登録されています。
西明寺栗の特徴
何よりも最大の特徴はその大きさ。
「大きさ日本一」とも言われ、Lサイズの平均で大きさが3cm強、1粒の重さで25g〜30gにもなります。毎年開催される「西明寺栗 年度日本一コンクール」の過去のチャンピオン栗の中には、幅5.7㎝、高さ4.7㎝、重さが66gという巨大栗も存在しました。
黄色をおびた果肉はやや堅く、粉質で味がよく、渋皮は薄く、煮崩れしない特徴があります。その為、渋皮煮での評価が高いです。
一般の栗の収穫は木を揺らし、毬を落とすことにより、中の栗を拾いますが、西明寺栗の場合は、毬が大きく成長し、栗自体も重いため、毬だけでなく、中の栗が自然に落下するものも収穫します。
この為、落下した栗に虫が付かないように行う、樹下の草の「下刈り」は、他の栗栽培にも増して、西明寺栗の栽培では重要な作業です。
(※栗の大敵であるクリシギゾウムシは、草の茂った藪を生息域とする為です。)
西明寺1号から5号の中で、栽培の中心は1号と2号。1号と2号に味の差は無いですが、1号は色が濃く「無骨な栗」という印象です。今回はこの西明寺1号を皆様にご紹介します。
齋藤農園のこだわり
数と量を犠牲にして、
大玉と味を追及!
栗の実を大きくさせるためには、栗の枝に光がしっかりと行き届くことが重要です。
すなわち、整枝・剪定や間伐を行わない荒廃園ほど実は小さくなります。品種的に巨大になりやすい西明寺栗ですが、手入れが悪ければ大きくなりません。
一般に栗は十分な地力の維持と施肥を行うことで、10aあたり200〜500kgの収穫が可能とされます。 ところが、齋藤農園はLLサイズを育てる為に、10aあたり100kg〜150kg、Lサイズで10aあたり200kgの収穫量を目安として樹園を管理し、長年の勘による、整枝・剪定と間伐を続けてきました。
Lと言ってもかなり大きい、
LLは十分に巨大
齋藤農園の、数量を落としてでも、大きさや品質を目指す「こだわり」が、LLの規格を超えた3L(39ミリ)の栗を生み出します。
齋藤農園の場合、M以下は1割程度。Lが全体収穫量の50%を占め、残りの4割がLLサイズ以上です。
さらに巨大で希少な「3Lサイズ」は、全体の10%弱です。
平成24年2月1日の雪崩(秋田県玉川温泉の岩盤浴場を襲った雪崩)に巻き込まれ亡くなった、二代目齋藤譲さんは巨大な西明寺栗と超肉厚特大の原木椎茸などこだわりの逸品を生みだす達人でした。その遺志を継いだのが、二女の瑠璃子さんです。
「父から譲り受けた、
こだわりの西明寺栗を
頑張って作っていきたい」
平成23年の6月、父が膵臓癌を患ったとの知らせを受け、神奈川県で会社員をしていた瑠璃子さんは実家に戻りました。病気の父から農器具の操作や農作業を教わり、農家として一歩目を踏み出した矢先に襲った突然の不幸ですが、瑠璃子さんは父の後を継ぎ、齋藤農園を続ける意思を固め、難しい西明寺栗栽培に挑みます。
生産量が落ち続ける西明寺栗
西明寺栗の生産者は高齢化などを理由に年々減少しており、齋藤農園も10年程前から、市場で値が付かないことを理由に、 市場への出荷を断念しました。
その後も、齋藤さんたちの栗園も面積を縮小せざるを得ない状況が続いています。地域でも栗の生産から離れる人が 相次いだうえに、手入れが行き届かない西明寺栗は大玉が少なく、巨大な西明寺栗はまさに幻になりつつあります。
手入れの行き届いた栗園と
かたくりの花
春のある短い時期、齋藤さんたちの住む「八津・鎌足地区」には、多くの観光客が押し寄せます。
目的は栗園の樹下に広がる、薄紫の絨毯のように咲くかたくりの花です。かたくりは、自分より背の高い茂みの中では成長が出来ない為、下刈りのされた手入れの行き届いた栗園がなければ、毎年、美しい花を咲かすことはできません。
もちろん、齋藤さんが丹精込めて育てた巨大な“西明寺栗”美味であることは言うまでもないです。
文・株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史