世界中の曲げ物や漆文化を探求し、曲げ物の新境地を開拓し続ける柴田慶信。
曲げの技術で金魚鉢までも作ってしまう最高の技は、今も止まることを知らない。
柴田慶信の秋田杉を見つめる眼差しは、厳しくもなぜか優しい
柴田慶信さん(1940年生まれ)は営林署に勤めながら学校を卒業。一念発起して曲げ物・曲げ輪の世界に1964年に入り約半世紀、
多くの先人の作品を分解しては研究を重ね、独学でその技術を会得しました。
歴史の古い日本の曲げわっぱ。その起源は奈良時代と言われています。
『大館の曲げわっぱ』も歴史が古く、関ヶ原の役後に、常陸水戸から出羽秋田に移封・減封された佐竹藩が、
録の減少を補う為に殖産興業の一環として、天然秋田杉を活用した曲げわっぱの製作を奨励したことが、現在の曲げわっぱに繋がります。
豪雪に象徴される厳しい冬と、豊かな夏が交互に
訪れる秋田の自然。
その自然に鍛えられて育つ天然秋田杉は、人工林
よりも6倍以上もの時間をかけて成長すると言わ
れています。
当然、木目は細かくなり、材質としても丈夫に
なります。柴田慶信は樹齢150年以上の
天然秋田杉にこだわり、それを余すことなく利用して、
様々な作品を作ります。
柴田慶信の曲げわっぱが出来るまで
上小阿仁で開かれる競売で落札した天然秋田杉は、それぞれの木の性質を見極めて切り分け、数年を掛けて乾燥させます。天然の素材、二本と同じものはないですから、先ずは木の性質を見極め、曲げ物の素材として仕込む工程が重要です。
数年間の乾燥を経て、切り出しされた杉材は80度ほどのお湯で温めて柔らかくしてから、丸い硬い型に巻いて、曲げわっぱ特有のカーブをつけます。 その後、のりで接着し、山桜の樹皮で綴じられ、やすりをかけて、表面を仕上げます。 白木の道具はこれで完成です。より耐久性を強める為に、シバキ塗りを施す場合もあります。
表面的な美しさよりも、自然な素材の機能を重視
一般的に販売されている『曲げわっぱ』は汚れが付きにくく、手入れが簡単にする為、ラッカーなどの人工的な塗装をしているものがほとんどです。
但し、それが故に、曲げわっぱの最大の魅力である通気性を妨げてしまうだけでなく、秋田杉本来の香りも台無しにしています。
曲げ物の技術を究めた金魚蜂
『曲げわっぱ』は大切に手入れして愛用すれば、百年の使用にも耐えると言われています。仮に木目に梅干しの色がついても、細かな傷がついても、それぞれが人生の足跡と思えば、味わいでもあります。
シバキ塗りを施していない、白木の曲げわっぱの場合、洗剤を使わないで、たわしでゴシゴシと洗い、必要に応じてクレンザーなどで磨いてあげれば、次第に夏場に成長した木目の柔らかな部分が削れ、固い年輪が際立ってきます。
『使い込んで、木が薄くなった曲げわっぱに、シバキ塗りをすれば、さらに長く使えるよ。』 柴田さん談
柴田慶信の曲げわっぱ 断たれた百五十年を超える天然秋田杉の命を最大限に生かす思いが込められています。大切な木を大切に生かす。それが基本です。
そして、冷えたご飯を最高においしく頂く為の道具でもあります。
米どころの秋田 お米に対する想いが曲げわっぱを進化させたのかもしれません。
天然秋田杉 木目細やかにして丈夫。 通気性の良い究極のご飯の弁当箱
10年以上使っているお弁当箱
駅弁を食べていて、『ご飯が美味しい!』と思うことがあります。そういう場合、駅弁の底とふたは、木の薄い板の場合がほとんどです。無駄な蒸気は白木の表面から適当に出ていくから、絶妙な食感と味わいと香りを生んでくれます。
その仕組みの究極が曲げわっぱです。角がない丸いシェイプは手にもしっくりきます。
曲げわっぱは洗って乾燥させて使うことが大切です。2つの弁当箱を交互に使い、弁当ライフを満喫するのが理想です。二つ使えば、きっと孫子どころではなく、ひ孫の代まで使えます。
美しく、自然に優しく、お米に優しい道具 それが柴田慶信の大館曲げわっぱです。
(文・株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史)