須田さんたちの農業に対するポリシーは明確です。
土づくりを徹底し、稲をもみの段階から鍛え上げ、病害虫に強い体質に育てます。
単に精神論ではなく、長年の試行錯誤の結果、化学肥料や農薬に頼らない稲作技術を確立しています。
雑草取りや害虫駆除は人手とマガモが必要ですが、自然な食物連鎖に則った水田は、動植物の活動が活発で、稲は逞しく、自然環境と共生して育ちます。
有機肥料とミネラルが十分に補給された水田は、毎年、力強く美味な米を育みます。
須田さんたちは、手押しの除草機を使って雑草を取りますが、アイガモ農法にも取り組んでいます。実際はアイガモではなく、マガモを水田で飼い、害虫駆除と除草を担当させます。
『アイガモ農法』と言えば、簡単そうですが、実際には野犬や野鳥から守る為の設備や飼育のノウハウなどが難しく、今でも試行錯誤だそうです。
あまり早くにカモを放つと稲を食べてしまうし、遅いと雑草が成長しすぎて、カモが食べないので、そのタイミングの見極めは難しいようです。
昨年度の統計では、ササニシキは日本の米生産量の1%にも満たない、幻の米になっています。モチモチ感が魅力のコシヒカリ系に押されていることも理由ですが、ここまで激減したのは、93年の大冷害でササニシキに大きな被害が出たので、その後、急速にひとめぼれなどの、耐寒性の強い品種に切り替わった為です。
冷めても美味しく、口の中で『ふわっと』ほぐれる食感から、寿司飯としての評価は高く、チャーハンや雑炊にも向いています。
須田さんたちは、幻となったササニシキを農薬も化学肥料も使わないで作り続けています。私は握り飯を頂きましたが、冷めても美味しいという実感はしみじみです。
あきたこまちは、「秋田31号」のコードネームで開発された、「コシヒカリ」の欠点である耐病性、耐倒伏性、収量性を改善した品種です。コシヒカリの食味に奥羽292号の早熟性を兼ね備えた『あきたこまち』は、今では秋田の米の85%を占める圧倒的なブランドです。
須田さんたちが鍛えた『あきたこまち』は、粒がしっかりしていて、とてもうまいです。
秋田の一般的な米のランク付けでは、最高等級の1等S米は整粒歩合が80%以上でタンパク含有は6.2%以下です。さすがに、そのレベルのお米は全体収穫量の1%にも満たないです。
須田さんたちの米は整粒歩合が80%を優に超えています。タンパク含有量は6.5%〜6.7%と高水準です。通常は農薬や化学肥料を使って品質を高めるわけですが、須田さんたちはそれを一切使用しないで実現しているのが素晴らしいです。
須田さんたちは、単位面積あたりの稲の株数を少なくして、成苗を移植するなどしています。その代わり、収量はササニシキで480kg/10a、あきたこまちで420kg/10aと非常に少なくなっています。通常栽培の場合、あきたこまちは570〜600kg/10aの収量が見込めます。つまり、収量を犠牲にして、高品質で安全で美味な米を消費者へ届けているのです。
須田さんたちの米は圃場ごとに単品管理されています。何段階ものチェックを経て最高の品質を担保しています。先ずは玄米段階でセンサー選別します。精米段階でも何度もセンサーや選別網にかけ、徹底的に良い米粒だけが袋に入る仕掛けになっています。さらに、米の品質を検査する機器が整い、検査担当者が出荷するお米の品質を確認しています。ここまで生産者レベルで徹底している場所は非常に少ないです。
須田さんの施設は政府の備蓄米の指定倉庫でもあります。厳しい保管基準を満たす施設はとても寒いです。こうして、須田さんたちの米は一粒たりとも、いい加減に扱われることはないです。安全と安心と味、全てに徹底しているのが須田さんたちです。
須田さんたちが、現在の取り組みを始めてから二十数年が経ちました。化学肥料・農薬大量投下農業が当たり前だった頃から、須田さんたちは安全で力強い米を作る取り組みを続けてきました。もちろん、数えきれない苦労をされています。
そうして確立してきた、無農薬・無化学肥料栽培で美味しいお米を作る技術です。長年、少しずつ、リピーターが増え続け、今では多くのお得意様に熱烈に支持されています。毎年、作る分は売り切ってしまうので、一般には流通しません。
今回、うまいもんドットコムでは少しですが、皆さんにご紹介する分を分けてもらいました。是非、懐かしい味のササニシキと定番のあきたこまち、両方お試しください。
(文・株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史)