秋田県 齋藤農園三代目 齋藤瑠璃子が育む
極上椎茸
豊かな自然と人が共生する里山 厳しい自然に囲まれた椎茸ハウスを 暖める間伐材ストーブと 数えきれない人の手間が究極の椎茸を生みます
角館から北におよそ10キロ、 田沢湖から西に5キロの地に 齋藤農園はあります。
平成24年2月1日の雪崩(秋田県 玉川温泉の岩盤浴場を襲った雪崩)に巻き込まれ亡くなった、二代目齋藤譲さんは巨大な西明寺栗と超肉厚特大の原木椎茸などこだわりの逸品を生みだす達人でした。その遺志を継いだのが、二女の瑠璃子さん(写真右)です。
「父から譲り受けた、こだわりの椎茸を頑張って作っていきたい」瑠璃子さん談
平成23年の6月、父が膵臓癌を患ったとの知らせを受け、神奈川県で会社員をしていた瑠璃子さんは実家に戻りました。病気の父から農器具の操作や農作業を教わり、農家として一歩目を踏み出した矢先に襲った突然の不幸ですが、瑠璃子さんは父の後を継ぎ、齋藤農園を続ける意思を固め、難しい原木椎茸栽培に挑みます。
原木栽培にかける情熱 肉厚にして短足の椎茸を追求!
全国的に菌床栽培の椎茸が推奨されています。それは秋田県も例外ではありません。重い原木の移動は人力に頼らざるを得ない為、原木栽培は労働負荷が極めて重く、高齢化が著しい日 本の農業で続けることは、ますます厳しくなっています。
それでも齋藤農園は原木栽培にこだわります。理由は味も香りも全然違うからです。
椎茸本来の有効成分は 圧倒的に原木栽培
味も香りも原木椎茸の方が、菌床椎茸よりもはるかに豊かです。確かに椎茸嫌いでも菌床椎茸は食べられるでしょうが、逆を言えば、椎茸好きには物足りません。
見た目はそれほど変わらない、原木椎茸と菌床椎茸ですが、実はその有効成分の含有量は、圧倒的に原木椎茸が高いこともわかってきています。
このハウスはMとLサイズの原木椎茸栽培ハウス |
これはMサイズの原木椎茸。肉厚にして短足 |
そもそも、椎茸などのキノコ類はカロリー的には目を見張るものはないです。ところが、最近の研究で、人体に有効とされる成分が豊富であることが、椎茸などのキノコ類を食す栄養学的見地からの最大の理由です。 こんなふうに思う方も多いと思います、 |
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お父さんの遺志をついで瑠璃子さんが頑張ります |
まさに、これからの時代の要請にマッチしたエコ農法が齋藤農園の真髄です。
雪深い秋田。原木椎茸のハウスは何もしなければ、雪に押しつぶされてしまいます。
齋藤さんは最高の原木椎茸を育てるハウスと、通常の原木椎茸を育てるハウスの二ヶ所を所有していますが、どちらも、薪ストーブが活躍しています。
『ぱちぱち』 静かにして、やんわり。薪の火力がハウスを温め、時折、積もった雪のハウスとの接点が溶けて、滑り落ちる音が『ずどっ』とする。
そんな環境の中、原木に潜んだ椎茸の菌糸が芽吹き、最高級品の『絹』の場合が50日から60日かけて、少しずつ成長します。もちろん、農薬の類は一切使いません。
雪に埋もれそうな『絹』を育てる椎茸ハウス |
このレベルが最高クラスの『絹』 |
必ずサイズを測り、厳選して収穫します |
ぎりぎりまで水を抑え、 緻密な肉質を生む その食感はまさに絹のよう
一般的な原木椎茸の場合、発生後2週間ほどで収穫しますが、齋藤農園の超こだわり品は、何と50日〜60日もの時間を費やし、少しずつ大きくなるので、大きなドームのような形に育ちます。
また、理想の姿に仕上げる為、保水と乾燥を調整する細かなメッシュが入った袋を一個一個の椎茸にかけて育てます。
『温度さ上げて、水っさあげれば、簡単に早く大きくなる・・・』 故 齋藤譲さん談
確かに、広がって大きな椎茸は見かけますが、齋藤農園の椎茸のような、肉厚で密度の高い椎茸を見ることはないです。 ゆっくりと、じっくりと育てるからこそ、絹のようなきめ細やかな肉質になるのです。 もちろん、水にもこだわります。齋藤農園では良質な地下水と大石沢から流れてくる清流の水を椎茸に与えます。
12月〜2月の雪深い里山で、齋藤農園は原木の伐採・玉切・運搬をし、3月に植菌します。
4月〜7月の仮伏せ・本伏せ 菌の活着を早める仕事ですが、この時の雑菌は要注意です。
8月〜11月 本伏せと散水管理が重要ですが、最近は、異常気象の為、毎年、管理が難しくなっています。
11月〜12月 椎茸の発生操作。この時期、気温と水分の見極めが最大のポイントですが、これが非常に難しく、三代目の瑠璃子さんにとっては、毎日が勉強です。
12月〜3月 最高の椎茸が採れる期間。適度な温度と湿度を維持するのが難しく、雪深い秋田の地で、最高の原木椎茸を育てる齋藤瑠璃子さんの修行は続きます。
(文・株式会社 食文化 代表 萩原章史)