丹波の松茸(丹波・摂津の松茸)
神戸から六甲山を越えた
山間部は
昔から豊かな陸の恵みで
知られています
現在は市町村合併が進み、昔の地名がどの辺りなのかは、わかりにくくなりましたが、
現在の兵庫県丹波市・篠山市・三田市の地域は、
松茸をはじめ、三田牛や丹波栗・丹波黒豆など、数多くの逸品を生み出す地域です。
私(食文化 萩原)がこの地域を訪ねたのは、10月上旬。
ちょうど、松茸・栗・丹波黒豆の枝豆の本格的な収穫期に入った頃です。
盆地特有の気候、良い水に土
そして里山を守る人が
極上の松茸を生む
最近は、大阪や神戸のベッドタウンとして住宅も増えましたが、今でもこの地域は里山と農地に恵まれた、日本の農村地帯です。
私が訪ねたのは武庫川の最上流の羽束川(はつかかわ)です。日本有数のオオサンショウウオの生息地で、鮎はもちろん、蛍も飛び交う清流です。
この羽束川が、神戸港発の外国航路の船に積み込まれる水の源流だそうです。羽束川をはじめとした、何本もの美しい川が何本も流れているこの地は、米もうまくなり、野菜も美味しくなります。
また、比較的急峻な里山には、豊富な川の水と寒暖の差により、霧が盛んに掛かり、松茸が育つには絶好の気候になります。
今回の訪問では三田の松茸の復活に尽力する、西田保さんの所有する松茸山に、特別に入らせて頂きました。
(注意:松茸山には許可なく勝手に入ってはいけません!)
山すその杉とヒノキの林を抜けると、思った以上の急登です。
この山は里山復活の為のボランティア活動で、ある程度の手入れがされているので、私でも登れましたが、本格的に松茸を採る場所は、山頂部に近い急斜面だそうです。
西田さん、樽井さんと共に
険しい斜面に入っていきます
ついに出遭えた!
丹波の松茸
西田さんが事前に目星を付けていた場所だったこともあり、30分ほどで、素人の私でも、何とか2本の松茸を見つけることができました。
実際、松茸のかさ部分は、落ち葉と保護色になっていて、目の前に生えていても気がつかないほどです。
慎重に松葉や土を取り除くと、そこには芳香を漂わせる松茸が出現しました。少し小ぶりでしたが、立派な松茸です。感動です。
三田牛と松茸のすき焼き、
焼き松茸、
鱧しゃぶ、
炊き込みご飯は究極の逸品
定番の焼き松茸、炊き込みご飯はもちろん美味ですが、力強い三田牛に負けない松茸はさすがです。
三田牛の脂とうまみをコーティングした松茸、松茸の香りで化粧した三田牛。
まさに絶品です。この料理は、少し松茸を長めに煮る方が、味の特徴がでます。
鱧しゃぶと松茸の『究極の出会いもん』も素晴らしいですが、松茸と三田牛も甲乙つけがたい
『究極の出会いもん』です。
松茸と三田牛のすき焼き
割り下は甘さ控えめがオススメです。
醤油4、味醂3、砂糖1.75、水1
これを煮立てて完成です。
すき焼き鍋に三田牛の脂を置いて、馴染ませます。上質な牛脂は消えてしまいます。
※ゴムのような脂の残りかすはでません。
そこにたっぷりの葱(白菜もあると良いかも)を並べ、少し火が通ったところに、松茸と三田牛を並べ、割り下をさっとかけます。
とき卵に牛肉をさっと潜らせて、熱々をほうばると、これが至福の時。
松茸は少し置いておき、割り下に香りを移します。煮詰まると、少量の水で薄めながら、いい塩梅を楽しみます。
流石、丹波・摂津の松茸。
三田牛を従わせるパワーは圧巻!
松茸が牛肉に負けることはなく、牛肉もうまい具合に松茸で化粧をした感じです。
松茸はあまり小さく切らない方が良いです。
最後まで、松茸らしく存在感を主張してくれるからです。サクサクの歯ごたえが楽しめます。
松茸ごはん
鮮度の良い松茸を手に入れること、うまい米を用意すること、昆布と鰹節で出汁を取ること。
ここまでで勝負の8割は決まりです。次の選択肢は炊飯器で炊くか?土鍋(直火)で炊くか?
もちろん、直火で絶妙にお焦げをつけられるとベストですが、自信が無ければ炊飯器が無難です。
もっとも、最新鋭の高級炊飯器ではお焦げもできます。
私の好みは固めのご飯なので、水加減は控えめ。ただ、松茸の季節は新米の季節でもあるので、
水加減には細心の神経を使います。べちゃべちゃの松茸ご飯では台無しです。
①出汁はきちんと自分で取る
私は天然羅臼昆布と本枯れ節で出汁を引きます。昆布は4時間もつけておけば十分に味が出ます。私は昆布水状態で味見して美味しければ、その時点で昆布は取り除きます。(もちろん、2番出汁用に捨てないでとっておきます)
鍋を火にかけて、沸騰するちょっと前に、たっぷりと鰹節を入れて、灰汁を取り、火を止めて、鰹節が沈めば、漉して完成です。
②松茸の下ごしらえ
松茸は石付きを削って、ぬれ布巾で汚れを取りますが、あまり神経質になる必要はないです。
炊き込み御飯には蕾よりも開いたものが良いです。
松茸は割いても切っても良いですが、ある程度の厚みというかは、歯ごたえがあるように準備します。細かく刻むのは論外です。
③出汁に松茸を泳がせ、軽く火を通す
私は砂糖を使いません。代わりに葱の青い部分を入れて甘みを出汁に加えます。
出汁がゆらゆらしてきたら薄口醤油と日本酒と塩で味を整え、松茸を投入します。
再沸騰の寸前で火を止め、松茸を箸でボウルにとりわけます。
残った汁を茶こしで漉せば、松茸についた土やゴミも取り除けます。
④米は炊く2時間程前に研いでおく
あまり長く浸水すると米の味が悪くなります。松茸の季節なら1〜2時間というところです。しっかりと水を切り、炊飯器か土鍋に入れ、漉しておいた汁を加え炊飯です。
この時、汁が温かい場合は、心持ち多目の水加減で炊くのがコツです。
また、土鍋の場合も炊飯器よりも少し多目の水加減です。
⑤炊きあがったら松茸を投入して蒸らす
松茸が入っていなくとも十分に美味しいですが、この最後のパワーアップで一気に炊き込み御飯が御馳走になります。贅沢なようですが、松茸を堪能する料理の三本柱の一本だと思います。
締めで食べるというより、すき焼きの前に、軽く茶碗に盛って味見をしながら酒を飲みたいです。
味付けもそのくらいシンプルが良いです。実はしょっぱい昔ながらの梅干しも合います。
ある意味、空腹感があるうちに、この究極の炊き込みご飯を食べないとなりません。
締めではもったいないです。
焼き松茸
焼き松茸は塩とスダチで味付けするか、日本酒とスダチとごく少量の出汁醤油で味付けするかですが、
日本酒の場合はアルミホイルで包んだ方が香りが際立ちます。
松茸の石づき削り、固く絞った布巾で表面のゴミや砂を落とします。
傘に包丁で少しだけ切り込みを入れ、松茸の繊維にそって割きます。
火力は炭火の遠火の強火が一番
ガス火ではうまく焼けないです。
焼けてくると、松茸から汗をかいてきます。指でつまんで柔らかくなっていれば完成!
塩をふり、スダチを絞り熱々を頂きます。塩を振り、一番だしに少量の薄口醤油味付けしたもので食べても美味です。
鱧しゃぶ
鱧しゃぶに入れると、まさに究極の美味鍋になるのが松茸です。
これ以上のうまいもんがあるのか?と思うほどの満足感が得られます。
鱧のうまみと食感に、松茸の歯ごたえと香りがタッグを組み、そのエキスが染み出た出汁は最高の雑炊やうどんの汁になるのです。
昭和30年代までは
さかんに採れた丹波松茸
今や幻とも言えるほど産量が落ち込んだ、究極の秋の山の幸 松茸。
戦争中は、『疎開してきた人間には、松茸でも食べさせておけや』と言ったほど、松茸は豊富に採れたそうです。
松茸が採れなくなった理由とは?
複合的な原因がありますが、何と言っても、里山の崩壊が原因か・・・
先ずは地球温暖化。最高気温が25度、夜間の気温が15度前後に下がった頃が、松茸の成長適温だそうです。それが温暖化の影響で、適切な時期に、適切な気候にならない為、微妙なバランスで生えてくる松茸には、ダメージが大きいようです。
さらに、大気汚染と松食い虫。これに猪と鹿の食害が追い討ちをかけています。
松茸山の周囲は害獣よけの電線が張り巡らせてあります。猪も鹿も松茸の傘の部分だけを食べてしまいます。
自然破壊はもちろん原因ですが、行き過ぎた人と獣の接点も問題です。
安易に餌付けしたり、餌となるごみを放置することは、間接的ですが、松茸を採れなくしています。
そして、何と言っても、里山の荒廃。
松茸はやせた土地を好みます。湿り気は必要ですが、落ち葉などが蓄積し、年中じめじめ状態になると生えてきません。
昔、里山は煮炊き用の枯葉や枝の供給源でした。また、林業が産業として成り立っていた頃は、間伐もされていたので、まさに、松茸の好む環境は整っていました。
それが、電気とガスの普及、さらには林業の衰退により、里山を手入れする人間がいなくなり、里山は荒れました。里山の荒廃=松茸の激減 とも言えます。松食い虫にしても、昔からいたのですが、里山が手入れされていた頃は、直ぐに切り倒され、広がらないように、松明にして燃料などにされたようです。
うまいもんの丹波・摂津の松茸が
リーズナブルな理由
当サイトでは、30年来、丹波と摂津の松茸シーズンだけ松茸卸をしている、丹波商店の樽井さんから松茸を直送します。
丹波商店さんは、自ら松茸山の入札も参加されますが、主には、丹波(昔の氷上)・篠山、三田の農家や山師の松茸を買い付けています。
樽井さんは、地元の松茸シーズン以外には、本業の不動産業などをしています。 農地の斡旋や産品の販売などを通じて、農家との太いパイプがあり、長年の信用で、安い価格で仕入れることができます。
(写真:丹波商店の樽井さんと私)
また、何と言っても、予約販売で在庫を持たないので、商品寿命が極端に短い松茸の小売で必ず発生する、廃棄損が極めて少ないのが、お値打ち価格で提供できる理由です。
松茸は輸送中の欠けなどの不良品発生が多い上に、収穫後に虫が発生し、店に置いている間に、中が虫に食べられて商品にならない場合が多々あります。
その為、デパートなどでは、その廃棄率を考慮して値段をつけるので、高価にならざるを得ません。
さらに高額がゆえに売れ残りも多くなり、鮮度の問題で販売できないものを多く発生するので、仕入原価に対して、一層高い価格で売らざるを得ません。 つまり、悪循環の高価格とも言えます。
さらに、当サイトでは傘が多少開いたものを混ぜることでも、価格を抑えることが可能となります。
形に必要以上にこだわらず、味と香りを重視した選別が重要です。この価格で丹波・摂津の松茸を提供できるのには、こんな理由があるのです。
文:㈱食文化代表 萩原章史