騎馬民族のご馳走
馬肉のタルタル
馬肉の美味しさを存分に味わえます
馬肉と言えば、馬刺し、桜鍋が馴染みの食べ方だ。馬刺しは熊本藩主の加藤清正が朝鮮出兵で、桜鍋は江戸・吉原が発祥とされ、ともに精がつく料理として特別に食べられる料理だ。この「馬肉のタルタル」は、材料を刻んで合わせるだけの簡素な食べ方ながら、体の芯から温まり、酒がすすむ一品。騎馬民族のパワーみなぎる料理を紹介したい。
ユーラシア大陸を席巻した遊牧民の料理
「タルタル」の起源は諸説あり、有力なのは、モンゴル帝国の遊牧民「タタール族」とする説だ。モンゴル帝国と言えば、東は中国北部から西は西アジア、ロシアにわたる大帝国を築いた一大国家。その遊牧民が長距離移動で酷使した馬をつぶす時に、硬い肉を細かく切って食べたのがタルタルの始まり。切った肉を鞍の下に入れ自重で柔らかくほぐし、香辛料などをつけた料理が西欧に伝わり、民族名をとって「タルタル」と名付けられた。ビストロの定番料理「牛肉のタルタルステーキ」の原型で、フランスでは、ピクルスや香草、ソースをつけて食べるスタミナ料理だ。この「タルタル」は、朝鮮半島に渡り、韓国料理「ユッケ」として定着し、まさにユーラシア大陸を席巻したのだ。
天塩にかけて磨いた上赤身の塊肉
タルタルの美味しさを決めるのは、「馬肉」そのものの旨さだ。使用するのは、熊本県フジチクの馬肉。フジチクでは、馬1頭に対して1人の担当者がつき、徹底して馬の健康を管理し、育て上げる。まるで相棒のように育てるのは遊牧民と共通していると言えるだろう。
天塩にかけて育てた馬を、熟練の職人が加工し、捌きたてをその日のうちに冷凍する。鮮度抜群、臭みは一切なく、肉の旨味をストレートに味わえる。
上赤身は、モモ肉を中心とした部位から主にとれる馬の赤身肉で、鉄分、グリコーゲンが、牛豚鶏の約2〜4倍。脂質は1/4以下、カロリーは約1/2と、いくら食べても体が喜ぶのが分かる。(日本食品標準成分表2015年版を参照)
玉ねぎと卵黄は欠かせない
刻み玉ねぎは、肉の大きさの5分の1サイズが目安。肉の風味を邪魔しないで食感も生きる大きさだ。刻んだ玉ねぎを30分ほど空気にさらすことで、辛味や和らぎ、栄養価も損なわずに食べられる。卵黄は、タルタルの舌触りをねっとりと滑らかに仕上げてくれる。馬肉100gに鶉の卵黄1個が丁度よい。好みで、ケイパー、コルニッション、ニンニク、パセリを薬味として用意する。
馬肉は粗目に切り、材料と混ぜ合わせる
肉は食感を生かすために大きめに切るのをおすすめする。塊肉は、流水で一気に表面を解凍した半解凍状態だと切りやすい。肉と刻み玉ねぎと、下味の塩、コショウが全体にいきわたるように混ぜていく。「細かくした馬肉を、遊牧民が鞍の下で押し潰しながら柔らかくした料理。」と、想像をかきたてる瞬間だ。
卵黄、薬味を盛りつけて完成
肉を盛り付け、卵黄、薬味に、マスタード、ウスターソース、オリーブオイルを用意した。薬味の種類は多ければ多いほど楽しい。前菜の一皿として食べるなら、バゲットを添えてもいいだろう。
自分好みに混ぜれば、猛烈に酒を誘う一皿に
タルタルは、肉を崩して、薬味を混ぜながら豪快に食べる。赤身肉の風味は、肉を噛むほどに脳に直撃するような本能的な喜びを感じる。大陸を制覇した騎馬民族のエネルギーを体感するようだ。
卵黄をまとった肉の舌触りもまたいい。薬味の酸味、ソースの甘さを加え、変化を楽しみながら食べる。赤身肉はさっぱりとしているので、薬味のバランス次第で酒を選ぶ。馬肉主体なら日本酒か焼酎、酸味が効いていれば白ワイン、卵黄のコクは麦酒あたりか。
旨い馬肉でつくる「馬肉のタルタル」は、身も心も満たされる一皿になることを保証する。