渡辺バークシャー牧場
黒豚の原点にして頂点
鹿児島
渡辺バークシャー
牧場を訪ねて
渡辺バークシャー・純粋黒豚が、「鹿児島の黒豚の原点にして頂点」とまで言われるのは何故か?
その美味しさの理由を現地に探ってきました。
創業の地は
鹿児島県霧島市です。
渡辺バークシャー牧場は、鹿児島伝統の黒豚を独自の研究で現代に復活させた渡邊近男氏(1936〜2021年没)が1987年に設立しました。 画像の右からお二人目が、渡邊さんから渡辺バークシャー牧場を引き継ぎ、牧場グループを率いる山田久治社長です。その左隣が、山田社長の牧場を引き継いだ御子息の山田隆史さんです。 両端は、先代の時代から渡辺バークシャー牧場を支えてきた松原博文さんと桜原ますみさんです。みなさんに霧島市にある渡辺バークシャー牧場を案内していただきました。
人々を魅了した
島豚の血統を
引き継いでいます。
「渡辺バークシャー・純粋黒豚」は、手足、鼻、尾が白いいわゆる六白、低い鼻、しゃくれた顎が特徴です。とくに「鼻ぺしゃ」と呼ばれる低い鼻が、鹿児島伝統の黒豚の特徴です。 鹿児島の黒豚は、明治時代に、琉球から移入したとされる鹿児島在来の小型の島豚とイギリス原産バークシャー種との交配で誕生しました。これが「渡辺バークシャー・純粋黒豚」の原型であり、鹿児島の黒豚の原点です。 鹿児島在来の島豚は、肉食が禁止されていた時代も、徳川家に密かに献上され、薩摩の偉人も好んで食べたと噂が残るほど、多くの人々を魅了した豚です。 明治に入り、食味に優れる中型の黒豚「イギリス原産バークシャー種」と掛け合わされました。
創業者は鹿児島の黒豚の発展を支えた
生産者のひとりです。
渡辺バークシャー牧場の創業者、渡邊近男さんです。もともと種豚の家畜商をしていた渡邊さんは、1971年に欧州の養豚現場を視察し、土地の風土と伝統が養豚のあり方を決めていると感銘を受けました。「鹿児島の黒豚こそ、世界に誇れる資源であり、維持、改良することは世界的に意義がある」と鹿児島伝統の黒豚の遺伝形質を独自の研究で再生し、牧場を設立します。実は当時、鹿児島では、伝統的な黒豚が激減していたのです。(撮影・盛島英欽)
鹿児島の黒豚には
消滅の危機に直面した時代があります。
渡辺バークシャー・純粋黒豚のような伝統的な黒豚は、体が小さく、成長が遅く、産子数も少ないため、戦後には海外から導入された大型で多産の白豚との交雑が進みました。さらに、黒豚の厚みのある脂よりも、白豚の赤身が評価される食肉基準が設けられたことも、その減少に追い打ちをかけます。とどめは、黒豚ブームで、本来の血統とは言い難い量産を指向した黒豚が流通したため玉石混交となり、その評価を落としたことで飼育数が大きく減少したのです。
渡邊さんの覚悟が詰まった
豚の資料室です。
画像は、霧島の牧場内にある資料室です。渡邊さんが、伝統的な黒豚の復活のために集めた飼料研究のデータ、黒豚の骨格標本、世界の原種豚の資料、木製の養豚用具など、時代も地域も超えた様々な資料が納められています。「黒豚を飼うのはバカだ」と言われた時代において、海外の生産者との交流や研究を続けた足跡からは、「血統を絶やさずに、発展させたい」という渡邊さんの強い想いを感じます。
一時は、消滅の危機にあった鹿児島の黒豚ですが、県や学者、そして渡邊さんのような生産者が支えたことで、高品質な血統が蘇り、そして守られ、ブランドとして確立しました。
美味しくあり続ける努力が
血統を守ることに繋がります。
渡辺バークシャー牧場グループを率いる山田久治社長は、ご両親の代から「渡辺バークシャー・純粋黒豚」を育ててきた熟練の生産者です。「渡邊さんの願いは、血統復活や維持に留まらない。純粋黒豚をバークシャーのルーツであるイギリスに持っていきたいという夢もあった。ですから、さらなる進化を目指し、美味しくあり続ける努力は惜しまない」と語ります。
目の行き届く規模で
時間と愛情をかけて
育てます。
霧島の豚舎は、血統を守るため、主に種豚を育成しています。豊かな自然に囲まれた開放的な豚舎で、種豚は穏やかに生活しています。 長年、お世話をしている松原さんが豚舎に近づくと、豚が寄ってきました。安心して繁殖できる環境を整えている証拠です。「渡辺バークシャー・純粋黒豚」は、鹿児島県内および隣接県にある16の牧場からなる生産者グループが飼育しています。 その各牧場とも親の世代から純粋黒豚を育てる熟練の生産者の集まりだそうです。大規模な豚舎ではなく、目の行き届く規模でゆったりと飼育することを共有しています。
パンを乳酸発酵させた
手作りの飼料が
味の決め手です。
「渡辺バークシャー・純粋黒豚」の飼育は、9〜10か月と一般的な豚よりも長い肥育期間であること、さらにはパンを乳酸発酵させた手作りの飼料を与える点に特徴があります。 腸内環境が整った豚は健康で、小麦由来の甘い風味が肉質を向上させる効果があります。 パンは、鹿児島県内の工場から仕入れ、各牧場で乳酸発酵をさせています。パン工場のない種子島の牧場にまでわざわざパンを運ぶほど、無くてはならない飼料なのです。
その美味しさを
伝えていきます。
「渡辺バークシャー・純粋黒豚」を販売する盛島英欽さんです。この豚に惚れ込んだ盛島さんは、南麻布の天現寺そばに「渡辺バークシャー・純粋黒豚」の厚切り焼肉を主体にした豚肉料理専門店「旨焼もぐり」を開店し、それを15年以上も続けています。 盛島さんにとっても、「渡辺バークシャー・純粋黒豚」は特別な豚です。「この豚肉は、厚切り焼肉、とんかつ、しゃぶしゃぶと、どんな料理にしても美味しい。 お店で食べてもらうだけでなく、多くの方に知ってほしい」と言います。盛島さんは、「渡辺バークシャー・純粋黒豚」の豚まん、生ハムなどの加工品も手がけています。(撮影・八木澤芳彦)
鹿児島が誇る伝統の黒豚を
楽しんでください。
「渡辺バークシャー・純粋黒豚」は、旨味たっぷりで歯切れ良く柔らかな赤身、まろやかな甘さで後味軽やかな白身が特徴です。どの料理にしてもその違いがはっきりと分かります。
その美味しさは、渡邊さんの信念に共鳴し進化を続ける生産者、本物を届ける流通・販売の覚悟が支えていきます。
※「かごしま黒豚物語(南日本新聞社)」、「高品質鼻ぺしゃ黒豚飼育マニュアル(渡邊近男・野田忠儀 共著)」を参考にしています。
文・前田朋子
撮影・磯畑弘樹