稲が本来持つ環境適応能力を引き出した
新品種のお米
新大コシヒカリ
こんにちは、うまいもんドットコムのごはんソムリエ®八尾と申します。
今回は、お米に携わる人間として今最も注目している新品種をご紹介します。
2023年のお米栽培は気候変動との戦いでした。かつてない猛暑と雨不足により、各地で一等米比率の低下が報告されています。稲の成長期である夏に高温にさらされることで、お米のおいしさの元であるデンプンの蓄積に異常が生じたことによります。
特に新潟県では等級の低下が顕著で、例年70%と言われる一等米比率がわずか1%台になってしまったという地域もあります。
そんなかつてない猛暑の中でも、しっかりとデンプンを蓄積し透明感のあるつややかな見た目で、炊きあがりはふっくらと味も粘りも上等に仕上がった“新しいコシヒカリ”があります。
高温・高CO2に耐性を持つ『新大コシヒカリ』です。
約20年をかけて暑さに負けない米が誕生
新潟大学農学部の三ツ井敏明教授が、コシヒカリに厳しい高温環境を与えることで、自然に適応する力を引き出しました。
コシヒカリと別品種のかけ合わせによる品種改良ではなく、稲が本来持つ環境適応能力を引き出すことで、高温・高CO2耐性という特性を獲得したのです。
そのため、香りも味もまさにコシヒカリ。
一年に一度しか実をつけない稲の改良にはとても時間がかかります。さらにその中から求める性質を持ち、収穫量や育てやすさなどを加味して実証実験を幾度となく繰り返します。その出現率は約1.5%という確率です。
研究には約20年の歳月を要し、2020年に「NU1号」として品種登録され。実際の生産を通じ、これまでのコシヒカリと変わらない美味しさ・収穫量と確認されました。
2023年には『新大コシヒカリ』という名称も決まり、本格的な品種普及に向けた動きが始まりました。
そんな折、記録的な猛暑の中でも持ち前の高温耐性を発揮し、整粒率を高く維持できていることで、今大きな注目を集めています。
生産者も期待を寄せる新しいコシヒカリ
新潟県のお米と言えばやはり「コシヒカリ」。
生産者さんもコシヒカリには愛着を持っています。その気持ちに応えるためにも『新大コシヒカリ』はコシヒカリにこだわったのです。
甘さ・粘り・豊かな香りだけでなく、水の量や浸水時間でしゃきっとした歯ごたえから柔らかな食感まで炊き分ける事もできる、万能なお米…
そんなコシヒカリの魅力はそのままに、気候変動の中でも美味しく育つ新品種に地元新潟県の生産者さんも注目をしています。
今回、品種を開発した新潟大学と生産・出荷を手掛ける越後ファームと連携し、うまいもんドットコムも『新大コシヒカリ』の普及に向けて取り扱いを開始します。
ごはんソムリエ®主観による2023年の新大コシヒカリの品質
精白米の外観はとてもきれいな仕上がりです。 お米は十分に成熟しデンプンが詰まることで透明な整粒となります。諸条件ありますが、大まかにはお米全体の1/2以上が透明ですと整粒となります。 今季、新潟産のお米を様々見てきましたが、新大コシヒカリはとても整粒率の高い良い品質だと感じます。 少々乳白部はありますが整粒率には影響のない品質です。これは高温よりも渇水の影響と言います。新潟は雨不足で水管理も大変だったようです。
炊きあがりは驚くほど粒立ちが良く食感もしゃきっとして、噛むごとにも粘りが出て甘味と香りが広がります。
米特有の複雑な旨味をしっかりと持つので、梅干し・漬物・魚・肉などおかずと合わせると特に真価を発揮します。炊き込みご飯もいいですし、卵かけご飯にも。塩辛い鮭との相性も大変良い…!
大満足の品質でした。
未来でも美味しいコシヒカリが楽しめることに、期待の膨らむ新品種です。
文:㈱食文化 八尾昌輝
撮影:八木澤芳彦