中国では三千年前の
周の時代から
食されてきた菱。
漢薬書「斉民要術」によれば
菱は養神強志・除百病・益精気に効果があるとされる
日本では子孫繁栄と長寿の願いがこめられ
盛んに栽培されてきたが
今では僅かの生産者が細々と作る幻の慈補品となった
そもそも菱餅は菱の実の粉で作られていた繁殖力が強く飢餓食でもあった菱の実の粉を使い
下の緑は真ん中の白(雪)の下に芽吹く緑の草
上の赤は邪気を祓う不老長寿の象徴である桃の花をあらわす
菱の実は元気で長生きの力が篭った凄い食材だ!
福岡県 JA柳川管内で唯一の生産者
「吉開 敏己」
(よしがい としみ)さんにお話を聞きました。
2022年10月20日。訪問の前日に急遽お願いしたにも関わらず、収穫の最中に車で訪問した私に、作業を中断して対応してくださいました。「遠いところから、はるばるようこそ来てくれました。」と、温かい笑顔で迎えてくださった吉開さんと奥様の対応に感謝しかありません。
福岡県 JA柳川管内では、2000年代の初めには30名ほどいた生産者も、2021年には3名になり、2022年にはJA柳川では吉開さんご夫婦だけになりました。隣りの大木町でも生産者は少ないながらも栽培しており、地元の道の駅などで販売されているそうです。つまり、地元以外ではほとんど、入手することが難しくなっている希少な食材なのです。
農業全般に言えることですが、高齢化により新しい生産者が増えるわけでなく、生産者は減る一方です。吉開さんの知り合いの生産者も、高齢で体がいうことをきかなくなり、最近作るのをやめてしまったそうです。
吉開さんご自身は、「菱の実を絶やさないでほしいといわれて作り続けている」とのことで、こうして作り続けてくださる生産者がいるからこそ、私達が菱の実を楽しむことができます。
10月下旬は、収穫の最終盤。
収穫期には毎日、田んぼに入ります。
ヒシ科ヒシ属に属する一年草の水草です。菱の実の栽培環境としては水田と同じです。
3月に前年に採れた菱の実を、水をたたえた堀に入れておくと芽が出てきます。4cmほど芽が出たら容器に移し替えて、水を張って苗場に並べておきます。そのあと5月に水田に植えます。
水草なので、植えるというよりも水中に浮いているという表現が正しいかもしれません。
その間、毎日、朝と夕方にポンプで水の入れ替えを行い、かけ流しをします。菱の実を清潔に保つために手間暇を惜しみません。肥料をきちんと与えることで、甘みが出ておいしい菱の実を収穫できます。
収穫は9〜11月に2回。
水田いっぱいの菱の葉を見て、まず思ったことが、収穫と苗を植えることの大変さです。
田植え機のような機械があるわけでもないので、相当の労力がかかると思って聞いたところ、菱は自分でどんどん増えるそうで、植えるほうはそれほどでもないとのことでした。
「60個くらいあればこの田んぼ一面がいっぱいにすることができるんです。」と吉開さんはおっしゃいました。
収穫は9月〜11月の間に2回収穫期を迎えます。2022年は9月中旬から一回行い、私が訪問した10月20日は2回目の収穫期の終盤でした。この後11月初旬まで収穫が続くそうです。
栽培は大変ですよ。でもね、
収穫後に食べる菱の実が
最高なのよ。
収穫期は、毎日朝6時から10時まで田んぼに入ります。菱を1つ1つ水田から抜いては戻すを繰り返します。
もちろん機械などありませんから、全て人の手による収穫です。1つ水面に上げて小さければまた田んぼに戻す。大きければ収穫する。
腰を曲げて長時間、収穫期には毎日繰り返すその労力は大変なものです。
「ほら見て。こんなに大きく育ってる。」
吉開さんの奥様が、こちらに向かって嬉しそうに見せてくれました。
10時にこの日の収穫を終え、ご自宅に戻ると、
「毎日、これを食べないと始まらないのよ。」と、塩茹でした菱の実とお茶をふるまってくださいました。
栗のようなホクホクした食味、
栄養価満点です。
菱の皮は漢方にも。
余すところなく楽しめます。
ヒシの塩茹で、ヒシご飯がおすすめです。
水に一晩さらしてアクを抜き、大きな鍋で塩分濃度2〜3%のたっぷりの水で茹でてください。(沸騰してからではなく、必ず水から茹でてください)沸騰してから25分〜30分ほど茹でて出来上がり。左側の写真からは分かりにくいですが、塩茹ですると紫色の果皮は、真っ黒になります。半分に切って、スプーンで中の白い部分を掘り出して食べます。
菱の実は、茹で具合によって食感が変わります。湯で時間が短いとシャキシャキとしたクワイのような食感。しっかり茹でると、栗のようなホクホクとした食感になります。淡白でありながら、独特の食感がたのしめる菱の実は、これからの時期、新米で炊き込みご飯にするものおすすめですし、天ぷらなどの揚げ物にしてもホックリした食感が堪能できます。
菱は、昔から漢方にも使われています。成分は主にデンプンでカルシウムやビタミンなども含んでおり栄養豊富です。また、滋養強壮や健胃効果があるとされています。
皮が一番大事!生果でなければ使用できません。
テーブルに干した菱の皮があったので聞いてみると、「皮が一番大事なの。」と奥様がいいます。茹でた後の皮は栄養素が出てしまうため、生の状態で果肉を取り出します。(中身は、菱の実ご飯などに使う。)皮は天日干しします。単に乾燥させるというだけでなく、日光で干し上げる行為がとても重要だそうです。干しあがったものは、沸騰したヤカンに皮を入れて15分ほど茹でてお茶として楽しみます。
果実の栄養価は、多くが皮と種に含まれます。近年、注目を浴びている抗酸化作用のある天然の機能性成分、ファイトケミカル(ポリフェノールの一種)も、皮や種に多く含まれます。ホールフードという言葉は、食品ロスの意味もありますが、「皮や種を丸ごと食べることの重要性」を示しているのです。
また、ヒシは有機ゲルマニウムを含む数少ない植物としても知られます。この有機ゲルマニウムには免疫力を高め、インターフェロンの生成を促す働きがある事が分かっています。入手が難しい生果ですので、是非、皮もお楽しみください。
ヒシのおいしい料理レシピ
1.ヒシ御飯(五合分)
生のヒシの皮をむき、さいの目に切る。塩大さじ1杯、うすくち醤油大さじ5杯に
チリメンジャコを適量入れ、御飯を炊きあげる。(ヒシは適量)
2.ヒシサラダ
生のヒシの皮をむき、塩水に30分ほどさらす。
さらした後、スライスし、レタス、玉ねぎ等と一緒に盛り付ける。
又、スライスしたヒシを三杯酢に10分〜15分つけて食するのも良い。
3.ヒシの塩ゆで
栗の実をゆでる要領で、鍋に水を入れ25分〜30分ゆでる。
ポイントとして、塩を多めに入れてゆでると美味しく出来上がる。
4.ヒシの蒸しパン
生のヒシの皮をむき、少し柔らかくなるまで短時間蒸す。
蒸したヒシの実をさいの目に切り、市販の蒸しパン粉にまぜて仕上げる(10分〜15分)。
仕上げにゆでたヒシの実をデコレーションするのも良い。
5.ヒシの磯部揚げ
生のヒシの皮をむき、塩水に30分ほどさらす。
塩水にさらしたヒシの実を、天ぷら粉に青のりをまぜた衣につけて実が浮き上がるまで揚げる。仕上げに、味塩をかけると良い。
6.ヒシのチリソース和え
生のヒシの皮をむき、塩水に30分ほどさらした後、片栗粉をまぶし揚げる。
揚げた物を市販のチリソースで和え、仕上げに小ネギをまぶす。(エビチリの要領で)