絶滅の危機から復活
青森の厳しい冬が育む極太の葱
南部太ねぎ
南部太ねぎは青森県南部町の伝統野菜
太くて甘くて緑の部分も丸ごと食べられる
青森県南部町の伝統野菜が南部太ねぎです。
昭和のはじめ、南部町(旧向村)の農家である留目忠男氏と工藤幸五郎氏の二人は、満州熊岳城農事試験場より入手した「明水(ミンスイ)」と、従来から長年自家採取してきた砂村ねぎと千住ねぎからの改良種を交雑し、長年改良を繰り返しました。その結果、昭和39年に品種登録された青森県在来種です。
背丈が高く1メートル前後に成長し、白根の直径は3センチ以上にもなり、1本の重量は400g前後、冬の寒さにも強いといった特徴を備えた、理想的な太ねぎです。
生で食べるとピリッとした強烈な辛みがありますが、白い部分は加熱するとトロトロで甘くなります。緑の葉の部分はシャクシャクとした食感で柔らかく、どこを食べても実に美味しいです。
一時は生産者が1名まで減少した
幻の葱
南部太ねぎは、南部町を中心に栽培され、一時は青森県内をはじめ、岩手県など他県にまで広く栽培されていました。ところが、背丈が1メートルを超えるため、根元が青くならないように土を被せる「土寄せ」を7回以上行わなければならない上に、緑の葉の部分がとても柔らかいので、ほかの品種のように機械を使えないため、手作業で土寄せをしなくてはならず、農家にとっては負担が大きかったそうです。
栽培の難しさや新しい品種の登場、生産者の高齢化が進むにつれて急速に姿を消しました。
2012年時点で栽培を続けていた農家はわずか1名。そのネギも他と区別されずに町内の直売所で並んでいるだけでした。かつてはよく食べていた地元の人にも忘れられ、あとは誰にも知られずにひっそりと絶滅する寸前だったのです。
地元の高校生が奮闘し
絶滅の危機から復活
平成24年に転機が訪れます。青森県立名久井農業高校に赴任してきた小笠原先生が「南部太ねぎ」の存在を知り、生徒たちと生産者を探しに行ったことがきっかけで、復活に向けて動き出しました。
生徒たちは町内にただ一人残っていた生産者から種を譲り受け、学校のほ場で栽培し、種を採り、負担の少ない栽培方法を研究。試行錯誤の結果、元肥をたっぷり含ませた土を高くうね立てし、マルチを張り、40センチほどの穴を開けて苗を植えていくことで、土寄せの必要がない効率的な栽培方法を確立しました。
その後、2013年には生産者が3名、2014年には10名になり2,800本を出荷するまでになりました。一時は12名にまで増えた生産者の数も、農家の高齢化や生産性の面で栽培をやめてしまい、2024年現在では南部町内で6名の生産者が約5,000本の出荷を行っています。
寒さが厳しくなる
11月から12月にかけて収穫
当時、高校生たちが出会い、最初に南部太ねぎの復活に向けて動き出した生産者の一人が、200年以上続く杉澤農園の8代目 杉澤均和さんです。現在は3棟のハウスで栽培をしており、11月下旬から12月にかけて、寒さが厳しくなる頃に収穫を迎えます。
ねぎ好きを虜にする辛みと甘み
口の中が極太のねぎで満たされる
杉澤さんの畑を取材した際、その場で収穫した南部太ねぎを調理してもらいました。
含水量が多いので白い部分にも、緑の部分にも、ねぎの汁が雫になって出てきます。これを舐めると、ねぎそのものの香りと味がします。生で食べると強烈な辛みがあります。でも、ねぎ好きには、身体が元気になるような、この刺激もたまりません。
白い部分は加熱することで、辛みが甘さに変わり、トロっとした食感になります。
オリーブオイルで焼くだけでも圧巻のねぎ料理が完成します。緑の葉はサッと火を通してシャキッと仕上げるのがいいです。
ほかにも、鴨南蛮蕎麦や煮込みうどん、すき焼きのような食べ方がオススメです。
文:食文化 植竹
撮影:八木澤芳彦