生産者はたった一人
国内で流通しているアボカドは99%がメキシコなどからの輸入品に頼っています。しかも、「ハス種」と呼ばれる単一品種しかまず手に入りません。日本でもアボカド栽培が始まっていること、「ベーコン種」や「ピンカートン種」というアボカドの品種やそれぞれの旬を知る人はそう多くはないでしょう。熊本県津奈木町のつなぎ南興FARM 諌山さんの園地を取材で訪れたのは2019年11月のこと。高台の一角には決して広いとは言えない小さな畑があり樹には袋掛けされたアボカドの実が枝に吊るされていました。
生産者の諌山(いさやま)さんは4種類のアボカドを栽培していますが、その中のひとつ完熟を迎えた「ベーコン種」を試食させてもらいビックリ。まるで濃厚なバターのように【非常に滑らかな口溶け】アボカドはオリーブオイルと同じくオレイン酸主体の油を豊富に含むことから「森のバター」とも呼ばれていますが、まさにその通り。私も初体験の食感で驚きました!本当に口の中で溶けていくのです。
1玉3,000円!
高級アボカドは何が違うのか?
ポイントは「完熟」と「油分」
ベーコン種
・完熟しても皮は緑色
・果肉が淡いクリーム色で濃厚なバターのよう
ピンカートン種
・見た目が細長く皮が緑色
フェルテ種
・4つの中では油分が一番多く滑らかな口溶け
ハス種
・アボカドの代表品種
・ブームの火付け役
店頭で山積みになっているアボカドは1玉100円前後で買うことができますが、諌山さんのアボカドは1玉3,000円以上になるものもあります。この違いは何なのか?ポイントは【完熟】と【油分】です。輸入アボカドは"青切り"と言って、まだ未熟の内に収穫して、輸送中に常温で追熟させます。追熟具合によっては購入してから手元で数日置くこともあり、食べ頃を見極めるには経験が必要です。また、未熟で収穫しているため、油脂含有量にバラツキが出たり青臭さが残ることも。
一方で国産アボカドは産地直送ができるため、完熟状態で収穫することができます。アボカドにおける【完熟】とは、フルーツのように甘みや酸味、香りの変化ではなく、樹上で長期間生らせることでオレイン酸主体の油脂含有量が増えることです。【油分】が増えた分だけ味が濃厚になり、果肉の滑らかな質感にも違いが出てきます。一般的な「ハス種」で果肉の18〜25%を油分が占めます。特に油分が多いとされる「フェルテ種」で25〜30%。諌山さんのように1玉1玉の熟度を見極めながら完熟品だけを収穫したものと、大量生産で青切りした輸入品では、油の入り方が違うのは明らかです。
それだけ味や果肉の質感も変わってくるということです。しかも、収穫後に追熟してベストな食べ頃で手元にお届けするので、「切ってみたらまだ固かった」という失敗もありません。国産の完熟品を一度でも食べれば「アボカドの本当の美味しさ」に気づくことでしょう!
●各品種の旬はこちら
「ベーコン、フェルテ:11月」「ピンカートン:12月」「ハス:2月・8月」
柑橘の里 熊本県津奈木町の新たな特産品となるか
〜アボカドの国産化〜
近年、日本では健康志向や食文化の変化により2009年から2018年の10年間で輸入量が2.5倍に増加(約74,000t ※2018年)しています。日本でも小規模ながら和歌山、愛媛、宮崎、沖縄、熊本で柑橘の耕作放棄地などを利用してアボカド栽培に取り組む生産者が出てきました。2012年、「つなぎ南興FARM」では官民でつくる水俣・芦北地域雇用創造協議会と連携し、無農薬で環境に優しい高付加価値作物の実証実験としてアボカド栽培を開始。
アボカドは中南米原産の果実です。年間通して比較的温暖な地域でしか育たないことから、甘夏やデコポンの栽培が盛んな津奈木町はアボカドが育つ最適な環境と言えます。 もっとも一般的な「ハス種」ではなく、「ベーコン種」や「ピンカートン種」に力を入れているのは「日本の気候ではこちらの品種のほうが栽培に適しているから」と諌山さんは言います。 苗を植えてから最初の2年間の生存率は約20%。過度な高温や日焼け、寒さにも弱く、マイナス5度が6時間以上続くだけで枯れてしまう非常にデリケートな植物です。
2015年には熊本に降った大雪で樹の半数以上が枯れる困難にも直面しました。無農薬栽培に取り組むため、防虫ネットで畑の周りを囲い、1玉1玉袋掛けすることも欠かせません。苦節8年、2019年11月には97玉の「ベーコン種」が無事に収穫を迎え、ようやく初出荷することができました。いまは数が極めて少ないプレミアム品ですが、今後は徐々に収穫量も増えていくことでしょう。11月には「ベーコン、フェルテ」、12月には「ピンカートン」が食べ頃を迎えます。輸入モノでは決して出来ない、アボカドの品種リレーにもぜひご期待ください!