東北の大産地 福島県に生まれ、
岡山県で10年修行した栽培方法は、山梨県の大藤流
福島県 永倉隆大さんの桃
永倉さんとの出会いは、修行先の岡山県の桃生産者と一緒に、豊洲市場を視察で訪れていた時からです。
高校を卒業後、お父様が岡山流で桃とぶどうを栽培していたことから、岡山県にある農業系の学校を卒業しました。その後、20歳から10年かけて岡山県の「総社もも生産組合」で学びます。
第一印象は、明るくハキハキした方で、凄く真剣に私たちの話を聞く姿が印象的でした。
2022年に実家に戻り、今では全ての桃栽培を一人で取り仕切っています。
取材日:2024年7月24日
「是非、私の桃を
食べてください」
送られてきた桃は、彼の性格が良くわかる
素晴らしい出来栄え
桃を栽培している永倉さん、葡萄を栽培しているお父様。お二人に贈答用の桃と葡萄をそれぞれ送ってもらいましたが、農作物は違えど、そっくりでした。
「この二人、血がつながってるんじゃないの?(親子だから当たり前です)」
と、一緒にいた同僚と思わず顔を見合わせてしまいました。
どちらも素晴らしく丁寧で、栽培している姿を見なくても、一つの桃・一粒の葡萄にどれほど手をかけているのか想像がつくのです。
特に、お父様が作る葡萄は芸術品のようで、食べるのが惜しくなるほど見事でした。
当然ながら、味は説明不要なほど美味しかったです。
真上に広がる桃の絨毯。
大きな桃が1本の木に約1,000個、たわわに実ります。
園地を見れば、永倉さんの腕の良さは一目瞭然。
ちょうど収穫直前の桃は、真っ赤に色づき、どれもが大きく実っています。圧巻でした。
明らかにたくさんの桃がなっているように見えたので聞いてみると、1本の木に1,000個も実をつけるそうです。
一般的には700個程度と聞いていたのでその個数に驚きました。
たくさん桃をならせると桃1つに行く栄養は分散するので1つ1つは小さくなるのですが、全て大きいのです。
小さい桃はほとんどありません。
木の間隔を広く取る。
葉に日光があたるように仕立てる大藤流栽培
根元から出た太い幹は、真上には伸ばさず、広く横に伸ばします。隣の木まで10メートルも間隔をあけるそうで限られた園地の中で、日当たりの良さを重視しています。
こうすることで、幹の上から下まで日光がまんべんなくあたるので、光合成が盛んになり、甘い桃になるのです。
そして、すべての実が大玉に仕上がっている秘密は、別の理由もありました。
剪定の技術も大切ですが、2〜3月には、花が咲く前の蕾をむしる作業(摘蕾)に力をいれるそうです。
「果樹は花を咲かせるときに大きなエネルギーを使います。そこでエネルギーを使い切ると美味しい桃は出来ないので、蕾の時にむしります。集中力が必要で、小さな蕾を数えきれないほど取る作業は骨が折れますが、ここをシビアに行うことで、樹の寿命が長くなり、味が良くなり、果実が大きくなるんですよ。」
果樹栽培は一年がかりと聞きます。私達はできあがった桃を食べるだけですが、見えないところでの努力が美味しさを決めているのです。生産者の苦労は、計り知れません。
他の作物はつくらない。
今は桃だけに集中している。
園地をお父様から引き継ぐときは、大変だったそうです。
「突然、息子が岡山から帰ってきたと思ったら、桃は自分が全部やると半ば強引に引き継いだわけです。父親が植えた木を勝手に切り倒したりもするわけですから、今までやってきた父親としては気が気じゃなかったと思いますよ。
でも今では、自分の栽培を認めてくれて、葡萄は父親、桃は自分、とお互いに責任をもってやっています。」
取材した日は、福島の代表品種ともいえる「あかつき」がピークで、話をしながら桃の梱包作業に追われていました。
生産者にとって収穫は、一年の努力が報われる楽しい瞬間です。とは言え、早朝から収穫をして、午後には疲れているにも関わらず楽しそうに仕事をこなす姿からは、桃栽培に対する責任感とプライドを感じました。
余談ですが、梱包作業中に桃をいくつか食べさせてもらいました。糖度を計測すると16〜18度くらい。若くして経験は十分。是非、たくさんの方に試してほしい桃です。